SCHEMER
この頃クルガンが触れてこない。
悦くない訳じゃないけれど、別にセックスが好きと言う訳でもない。
それなのに、身体の中に蟠るこの焦れにも似た衝動は何なのだろう。
気が付くと無意識にクルガンの指先を目で追っている自分がいる。
解らないはずがないのに、何も知らないような顔で
「どうした?」
などと、何故そんな事が言えるのか。
それとも、男である自分を抱く事に飽きてしまったのだろうか。
苛立ちとも焦燥とも酷似した感情が、そう意識すると更に膨張していく気がした。
書類を捲る整った指先も、何時も冷めた言葉を刻む唇も、触れてしまえば酷く熱くて。
その熱さを思い出してシードは唇を噛み締める。
「……クルガン」
耐え兼ねて、名を呼ぶ。
紙面に落とされていた視線がゆっくりと自分に向けられ、それだけで快感にも似た痺れが背筋を走り、肌が粟立った。
「何だ?」
この声が睦言を囁く、その瞬間を思い出す。
絡まる視線を逃がさないようにと睨み見て、もう限界だと思う。
「……抱けよ」
乾いた唇を湿らせるように舐め、そう言った声音は僅かに掠れて空気を震わせた。
「今まで、嫌だって言っても無理矢理抱いたくせに、なんで急に抱かなくなったんだよ!?」
怒鳴るように言って、シードは誘うように上着の片袖を落とす。
しかし、そんなシードを見つめているクルガンは相変わらずの無表情で。
胸の奥の棘刺すような痛みにシードは僅かに瞳を歪ませた。
「抱けよ、クルガン」
視線を外すコトなく、もう一度繰り返す。
その言葉にクルガンの表情が和らいだのは、シードの気のせいではないだろう。
ゆっくりとした足取りで近づいて来るクルガンから、そこで初めて視線を外してシードは俯いた。
「意外と強情だったな」
シードの顎を持ち上げ、クルガンは吐息の絡む距離でそう囁く。
その言葉の意味が解らずに訝しむような表情を作ったシードは、しかし何を言うより先に言葉ごと唇を奪われていた。
久しぶりの接吻けは記憶に違うコトなく蕩けそうな程に熱い。
貪るように激しく舌を絡め、送り込まれてくる唾液を飲み下す。
キスだけで既に身体を支えていられなくなったシードの腰にクルガンは腕を回して抱き寄せると、唇の横に一度音を立てて接吻けた。
「ずっと私に触れられなくて、気が狂いそうだった。違うか?」
低い笑いを含んだ声を直接耳朶に注ぎ込むように言うと、シードがピクリと身体を震わせて、それがまたクルガンの笑いを誘う。
「たまには誘われるのも悪くない」
からかうようなその言葉に、やっと気付いたようにシードが顔を上げた。
「アンタ、もしかしてワザと…?」
「もしかしなくても、だ」
卑屈だと思った。だが、弄ばれていたコトへのショックが大きく、シードは酸欠の金魚のように口を動かすが言葉にならない。
「私が抱けば、イヤだのヤメロだの言うのはお前だろう。だから、それを言えない状況を作ったまでの事だ」
意地悪く微笑んだクルガンにシードは目眩を覚える。
「……アンタって、ほんと……っ」
しかし、反論の言葉はクルガンの唇によって最後まで紡がれる事はなく、諦めたようにシードは広い背中へと腕を伸ばした。
2001.08.06