パジャマでオジャマ



 インターホンを鳴らし、少し待つとドアが開かれる。
 それが日常として定着し始めたのは何時だったろうとぼんやりと考えながら、尚隆はドアの向こうから聞こえてくる足音に微かに表情を和らげた。
 最初はどうなることかと懸念していたこの生活も、始まってみればさして悪いものではない。寧ろ会社で寝泊りしてしまうことの多かった尚隆にとっては、家で誰かが待っているという事実が帰宅の理由にもなっている。
 ―――ガチャリ。
 施錠を外す音が鈍く響き、そのままゆっくりと押し開けられたドアを外側から押さえるようにして受け取ると、ドアの向こうにこちらを見上げている少年の姿が目に入った。
「お帰り、一日お疲れさん。今日は遅かったんだな」
「あぁ、ただいま。少し会議が長引いた」
 自分の帰宅の何がそれ程嬉しいのか、そう言って笑う六太の顔を見返しながら伸ばされた手へと手にしていたブリーフケースを預け、尚隆は扉の開きを僅かに大きくして玄関へと足を踏み入れる。
 引っ掻けていたサンダルを脱いで先に部屋へと上がった六太の背中を眺めながら、後ろ手にドアを閉めた尚隆はそこでふと気付いたように片眉を上げて。
「尚隆?」
 そんな様子に気付いたのか、振り返った六太が怪訝そうな声で名前を呼ぶ。その声に答える前に腕を伸ばし、尚隆は細い身体を抱き取った。
「……な、なに?」
 驚いた様子の六太に構わず尚隆は抱き寄せた胸元へと指を伸ばし、手触りの良い白い布地を軽く引っ張る。
「これはどうした?」
「え?」
 唐突に問われた言葉に戸惑ったように六太は自分の胸元へと視線を落とした。着ているのは白いパジャマ。僅かにシルクが混ぜられているのか手触り良く軽い生地で出来たそれは、今日下ろしたばかりの物で。質問の意味を漸く理解して、六太はおずおずと尚隆の顔へと視線を移した。
「……貰った」
「誰に?」
「朱崎サンに……って、なにそんなに怒ってるんだよ!?」
 詰問するような尚隆の口調にむっと眉を寄せると、幾分荒げた口調で言葉を返しながら六太は自分よりも高い位置に有る顔を見上げる。しかしそれを気にした様子も無く、軽く片眉を上げた尚隆は面白くなさそうに一つ鼻を鳴らして。
 次の瞬間、糸の弾き切られる音が異様に大きく室内に響いた。
 それがパジャマのボタンを弾き飛ばされたからだと、僅かに遅れて気づいた六太は微かに瞠目しながら肌蹴た胸元を片手で掻き合わせる。
 床には数個弾かれたボタンが転がっていて、畏怖にも似た表情を向ける六太に尚隆はすっと瞳を眇めたまま微笑んだ。
「俺の前で、他の男から貰ったモノを身に付けるな」
 普段よりも低く鼓膜を震わせた声に当惑したような瞳が向けられ、その様子を見下ろしながら小柄な身体を肩へと担ぐようにして靴を脱ぐと部屋へと上がる。
「―――ッ!尚隆!!」
 嫌がるように担がれたままの六太が身じろぎを繰り返し、落としたのか落ちたのか、ブリーフケースが床に当たって鈍い音を立てた。しかしそれにも関心を示さぬまま、尚隆は大股に寝室へと足を向ける。大して距離の無い廊下を歩き、ドアを開けると嗅ぎなれた煙草の匂いが鼻腔を擽った。
 嫌がるように何度もスーツの背中を叩き、それでもビクともしない尚隆に六太は僅かに泣きそうになる。こんな時、この男を怖いと思う。力の差を見せ付けられて、自分が非力な子供だと言うことをむざむざと思い知らされるのだ。そう思っている間にも尚隆の歩みは止まることは無く、そのまま辿りついたベッドの上へと放り出されて。
「……ぅ、あ……」
 小さく悲鳴を上げた六太を見下ろしながら、尚隆は悠然とした動作でネクタイを解き、上着も脱ぐとそれを部屋の隅に佇むソファへと投げ置いた。
「まだ、返事を聞いていないが?」
 低く囁くように言葉を紡ぎながら、そのままゆっくりとシーツの上へと片膝を乗り上げ、尚隆は身じろぐことも忘れた小柄な身体の上へと覆い被さる。掻き合わされたままの胸元から手を退かせ、掴んだ手から微かに六太の震えが伝わった。
「……え、なに……?」
「一つ頷け。俺が買い与えるもの以外身に付けないと」
 言葉の意味が飲み込めていない様子の六太の耳元に囁きを吹き込み、常よりも早い鼓動を刻む胸元へと指を滑らせると小柄な身体がシーツに新たな皺を作る。
「なんで?そんなの……や……っん……」
 反論の言葉を紡ごうと動かされた唇をそのまま奪うようにして塞ぎ、唇の隙間から強引に舌を挿し入れた。噛まれぬように強い力で顎を掴み仰向かせながら、怯えたように引かれた舌を探し当て、絡め取っては唾液ごと啜るようにして吸い上げる。瞳を閉じぬまま間近な顔を眺め遣ると、苦しげに柳眉を寄せながら必死に逃れようとする姿が目に入り、それが余計に尚隆の怒りにも似た劣情を煽った。
「……っ……、ふ……」
 何度も舌を絡めては解き、また絡めて。嫌がるように胸を押していた腕が力を無くしたのを認め、応え始めた舌を水音を立てて吸い上げ、唾液の糸を引きながらゆっくりと唇を離す。そのまま喉元から顎先へと舐め上げると、六太が小さく喘いだ。
「返事はどうした?」
 片手で布地の上から胸元を撫ぜ擦り、それでも頑なに首を横に振る六太に尚隆は呆れたように溜息を吐く。
「……おれ……っ、悪くな……ぁ……」
 唇を喘がせる様子をチラリと眺め遣ってから、弄っていたのとは反対の突起へと唇を寄せる。布の上からねっとりと舌を這わせ、突起を捏ねる様に舐ると六太の手がワイシャツの袖を掴んだ。
「一言、言う通りにすると言えば良いだけの話しだろうが」
 布越しの突起を何度も舐り、形を確かめるように時折甘噛むと小さく身体が震え、唾液に濡れた布地が赤く尖ったそれを透かし見せる。与えられる刺激に頬を上気させ、仰のくようにして呼吸を乱す六太はそれでも嫌がるように頭を振った。
「……お……まえ、言ってること滅茶苦茶……、……はっ……ぁ……」
「黙れ、この馬鹿ガキが……」
 嬌声を上げながら、それでも返された言葉に苦く呟きを返すと、尚隆は唇を指で弄っていた突起へと移し、掌を下肢へと忍ばせパジャマの中へと差し入れる。ゴムの通されたパンツは六太の意思とは反対にすんなりと掌の侵入を許し、そのまま下着をくぐった指先に頭を擡げ始めた性器を包み込むように握られて。
「……ひぁ……ん……、ぁあ……ッ……」
 先端を指腹で擽るように撫でられる度に握られた性器がヒクリと震えて質量を増し、与えられる刺激に耐えかねたようにあからさまな喘ぎが空気を震わせた。胸と下肢へと与えられる二つの刺激に攫われかけた意識の隅で、まだ幼い性器を扱かれる度に立つ水音だけがいやに鮮明に耳へと届く。それを嫌がるように両腕で顔を覆った六太の耳元へと、ぺロリと濡れた布地ごと胸先を舐め上げてから尚隆は唇を移した。
「俺だけではなく、朱崎にもこういうコトをさせ、同じように抱かれるのか?」
 ゆっくりと掌で包み込むように自分のモノより小さな屹立を扱きながら、尚隆は囁くように言葉を紡いで。それに微かに瞠目すると、違う、と震えた声で繰り返しながら六太はシーツの上の金糸を泳がせた。
「男が服を送る理由を知っているか?」
 六太の様子を細めた瞳で見遣りながら、変わらぬ囁き声で問うと屹立から指を離しそれを狭間へと差し入れる。先走りが零れて濡れた蕾は、篭められた力にするりと尚隆の指を飲み込んだ。
「……ぁっ、……ん……ぁあ……」
 空いた手でパジャマのパンツを下着ごと引き下ろし、足から引き抜かせると床へと放る。既に先走りをとろとろと溢れさせている屹立が曝され、羞恥にか膝を合わせようとする足をそのまま抱え上げて。挿し入れた指で内壁をぐるりと掻き混ぜるように擦り上げると、組み敷いた身体が小さく跳ねた。
「こうやってな。脱がして犯すために、男は服を贈るんだぞ」
 そう言い終える前に、根元まで突き上げるようにして指を押し入れさせると、また甘やかな嬌声を上げて六太が啼く。解れてきたそこを何度も擦り上げるように、指を増やして焦らすような抜き差しを繰り返すと、堪えかねたように浮かされた腰が刺激を求めて揺らめいた。
「……ぁんっ……尚隆……、ね……っも……」
 無意識に縋るように伸べられた腕が首へと絡められ、隠されていた顔が露になる。微かに上気した頬は赤く、紫暗の瞳は扇情的に潤んで強請るような眼差しを浮かべて。ゾクリと背中を走った情動を誤魔化すように、尚隆は挿し入れた指でしこった部分を押し揉むように力を篭める。その刺激に六太がヒクンと、唾液に濡れたパジャマを纏わせた胸元を反らした。
「……やぁ……っ、ぁあ…………はや、く……っ」
 荒げた呼吸の下から甘く酔った声が聞こえ、開かされた足を誘うように更に大きく開いて六太が強請る。締めてくる内襞が物欲しげに指へと絡み、ひくつくそこから尚隆はアッサリと指を引いた。それを嫌がるように身じろぎ、名残惜しげな喘ぎを紡いだ六太の耳元へと尚隆は唇を寄せ直して。
「……欲しいか?」
 囁かれた言葉に何度も何度も頷きを返す六太にほくそえむと、尚隆は間近な喘ぎを聞きながら耳朶を舐り上げた。
「さっき言われたことを、覚えているな?ちゃんと言ってみろ」
 昂ぶったままの身体を放り出され、小刻みに肌を震わす六太に促すように低く囁きを落とす。堪えきれなかったように自身のベルトへと伸ばされた指に気付くと、それを掴んでシーツへと縫い付けるように押さえ込み、尚隆は意地悪くひくつく蕾を指先で引っ掻くように突ついた。
「……も、……着な……いっ……から……!」
 目尻に溜まっていた涙が零れ、泣きながら六太は叫ぶように言葉を紡ぐ。それを聞きながら満足げな微笑みを浮かべると、押しつけられる股間に汚されたスラックスを気にした風も無く、自らのベルトを外してジッパーを下ろし片手で先走りを零し始めた屹立を取り出した。
 硬くそそり立ったそれを、焦らすように六太の内腿へと擦りつけながら尚隆は柔らかなキスを一つ落とす。そのまま数度唇を啄ばむと、開かせた足を抱え直しながら蕾へと押し当てた先端を一息に押し入れて。
「―――っ、ァ……ぁあ……ッ」
 臓腑を押し上げられるような異物感と、これ以上ないほどに待ち侘びていた快感を与えられて濡れた瞳を大きく見開きながら、臨界点をとうに超えていた屹立を震わせると六太はそのまま己の腹を汚す。
「……イったな?」
 揶揄するような呟きと共に、息を吐く間も無く収められていた屹立がゆっくりと身体の中を擦り上げる。柔く敏感な粘膜を擦り上げられ、達したばかりの身体を細かに震わせながら六太は尚隆の首へと回した腕を強めた。白濁に汚れた性器が内から与えられる刺激にまたヒクリと震え、次第に質量を取り戻す。
「……は、ぁ……、ぁあ……ん……」
 早められて行く抽送に六太はあえかな声を惜しげなく零しながら、引かれてはまた突き入れられる屹立を逃すまいとするように内襞をねっとりと絡ませ。時折詰めた尚隆の喘ぎが混ざった。
「ひぁ……ッ、……ァアッ」
 部屋には肌のぶつかり合う音と水音、喘ぎ、それに重なり合う粗い呼吸のみが響き。漏らされる喘ぎが一際高く上がったところで六太は二度目の精を吐き出し、キツク締めつけてくる内部に堪えきれなかったように尚隆も最奥へと叩きつけるようにして欲望を迸らせた。
 

 その晩、養われ子は朝まで安眠を貪る事は許されず、翌朝元気に出勤して行った養い親をベッドの上から恨めしげに見送る事となる。それでも、その口許が時折微かな曲線を描いたことに尚隆が気付くことは無く。
 事の発端となったパジャマを購入した朱崎が後に同僚の帷上に愚痴を零すことになるが、それはまた別のお話し。



2002.11.15